サーフィン小説風メキシコ旅行記

ラ・プンタ

La Punta

 
 

第一回日本海洋文学大賞受賞作が、時を経て生まれ変わりました。サーフィン・ビデオと旅の豆知識満載。十六歳の少年が、オアハカの海で波乗りと人生に出会います。

作・松本尚人


第一章 メキシコ・シティからプエルト・エスコンディードまで

      「何かもしもの事があったら、パパの会社の人じゃなくて、

       ここに連絡しなさい」

      別れ際に言ったタエコの言葉は、はっきりと頭の中に残っている。

      電話をかけようかと思わないわけではなかったが、

      こすった目にうっすらとにじんでいた涙に、

      かえってそれができなくなった。

      まだ、日本を出てから二日しかたってないじゃないか。

      これしきのことで、・・・。

      紙切れは、ポケットの奥にねじ込んだ。

      サイレンの音が響いた。

      とにかく、今夜は寝ないほうが安全だ。・・・。

      太郎はテレビのスイッチを入れた。

      アメリカの刑事物をスペイン語吹き替えでやっている。

      ドラマの中でも、サイレンが鳴った。

      (文中より)


第二章 「ラ・プンタ」と呼ばれる岬で、サーフィンと出会ったなら?

      一つ目の波が来た。

      うねりは少し沖から崩れはじめ、

      太郎の目の前に白い波の頭が広がった。

      太郎は懸命に腕を回し、波の斜面をのぼった。

      水面が掘れ込んで猫の爪のような弧に形を変えようとした。

      その直前で、太郎は何とか波の頂上を乗り切った。

      二つ目の波も辛うじて乗り越えた。

      しかし、三つ目が見えたとき、これはダメだと観念した。

      ひとつのセットとなってやって来た波の中でも、

      三番目はひときわ大きく、

      はるか沖合いから割れはじめた。

      なんだ、これ!

      波の底の太郎の位置から見上げると、

      切り立ったその先まで二階建てのビルほどはある。

      (文中より)


第三章 少年サーファーは、少女がオンナに、自分が大人になることに耐えられるか?

      アニタがパドルする姿は美しい。

      無駄な動きがまったく無いのだ。

      手を入れる。水をかく。ボードが前進する。

      アニタは潮の流れの地図でももってるのかなあ。

      最も楽に沖へゲット・アウトできる所から、

      アニタは次々に来る波を抜けていく。

      アニタは本物のサーフ・ボードに乗ったことなどないのに、

      どこで波を待てばよいのか正確に知っていた。

      テイク・オフでもアニタは何もしない。

      右、左とそれぞれ一回ずつパドルすると、

      もうボードの上に立っていた。

      波を横切り、カット・ザ・ウェイブ。

      優雅にターンさえしてみせる。

      ちぇっ、体重が軽いから、簡単にできるんだ。・・・。

      太郎は自分を納得させようとするが、やはりこれは嫉妬なのだ。

      (文中より)


第四章 「オアハカの冬には、波がない」でも、メキシカン・パイプラインがあるさ

      波がラ・プンタになければ、

      ボードをかかえて探しに行く以外なかった。

      だから今日は、砂浜づたいに歩いて、メキシカン・パイプライン、

      つまり、プエルト・エスコンディードのシカテラまで来てしまった。

      ・・・。いつもここに来るときは、もの凄くデカい波が立ってる。

      大きい波とはいわないけど、

      サーフィンができるくらいの波があるんじゃないかな。

      と太郎は期待した。

      確かに、波はラ・プンタよりは大きかった。

      パコロロの建つ断崖の下、ホテル・アルコ・イリスの正前に、

      小さな波が立っていた。

      (文中より)


第五章 ビッグ・ウェイブ・ライダーズ 世界を旅し、大波に乗る男たち

      五メートルはある。いや、もっとあるかもしれない!

      太郎は丘を駆け上がって、見晴らしの良い高台に立った。

      海には、波が延々と縞目を作っていた。

      青い波のコーデュロイは水平線の彼方から揺れて来て、

      ラ・プンタに当たると左から右へと機械のように崩れていった。

      三つのブレイクを巧くつなげれば、

      500メートル以上乗れるかもしれない。

      海岸には、砂浜づたいにプエルトから歩いてくるサーファーが、

      すでに何人も見えた。

      古いフォルクスワーゲンのミニ・バスや、大型の四輪駆動車が、

      次から次へとカレテラから下りてきては、浜べりに駐車していく。

      続々と詰めかけるサーファーは、

      各々のボードを広げて準備を始めている。

      海を見つめて波の大きさを見つめる者。

      セットの数を数えて仲間と話をする者。

      ワックス塗りに余念のない者。

      巨大な望遠レンズを付けたカメラやビデオをセットする男達もいた。

      (文中より)


作者から、皆さんへ (あとがき及び略歴に代えて)



 

メキシコの旅、自分をさがす旅。

オアハカの波、美しく大きい波。