波のカールが大きくなり、ぽかりと穴が開いた。空にかかった水のアーチだ。身を低くして突っ込んでいく。
先程までの緩慢な丘が、うってかわって断崖になる。
勢い余った波の先端は、横向きの滝だ。水の巨魁が水平に飛ばされ、橋 を描く。 波を背負う。息を吹き返したエネルギーが、体を波のショルダーへとはじく。
斜面の端で右脚を軸にターンすると、水が扇となって散った。遠心力が太郎をも吹き飛ばそうとする。
レールを水面に食い込ませて耐え、ぐいと顔を上げた。
岩があるぞ!
「ロケット発射台」の手前の巨岩が、鑿のように刃をこちらに向けている。
もの凄い力で背後から押され、このまま直進すれば激突だ。
水の中に逃げるには、もう遅い!
わざと倒れ込んだとしても、水流は岩の群れで太郎を粉々に砕くだろう。
太郎は正確に「発射台」へと抜けるしかなかった。
目をそらすな!
太郎は自分を叱咤する。
目をそらしたら、ぶつかる!
「鑿」の手前で水深が浅くなり、波がカールする。力とスピードが増し、太郎は微妙な体重移動でコースを探す。
岩に当たった波が戻ってきて、不自然な渦を巻いた。太郎の抜け道が一瞬消えた。
ぶつかる!
腰がひけそうになる。
その瞬間だ。波のカールが大きくなり、ぽかりと穴が開いた。空にかかった水のアーチだ。
ここしかない!
太郎は身を低くして突っ込んでいく。
がっ。
鈍い音がして、ボードは尖った岩の刃をかすめた。ガンのどこかが欠けたかもしれない。
抜けた!
視界がぱっと開けた。
カレテラが通る緑の丘が、目の前に広がった。
そして、白い砂の海岸。
太郎のテイク・オフに興奮して、レヒーノが足を引きずり走る。それを追うようにアニタも小屋を飛び出してきた。二人とも両手を振り振り、
「タロウ、タロウ」
と叫んでいる。
あれは?!
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キミの探すものは、ココにある!
コ、コレが欲しかったんだよ!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)