フリー・フォール。滝を落ちるように滑る。体の中を風が抜け、すべてを後ろに運んでいく。
無意識のうちに、手足が正しい動作をする。
右足がテールに乗る。
両腕が伸びる。
胸が反る。
スピードと緊張の中、肉体が最大限の能力を発揮する。
尖ったピン・テールが、水の壁に食い込んだ。
後になった右脚に体重を預ける。
落下で生まれる風圧が、板をはねのけようとする。
左足を軽く当て、それを押さえた。
フリー・フォール。
太郎とボードが滝を落ちるように滑る。
体の中を風が抜け、すべてを後ろに運んでいくようだ。
ドナも、パコロロも、父親も、何も無い。
頭の中が空になって、ひたすら透明になる。
背後から波の崩れる轟音が迫ってくるはずなのだが、それすら聞こえない。
太郎は、自分が静かな世界の中心にいるのを感じた。
僕は波だ。僕は波になった。・・・。
ボードのレールが水面を噛みはじめた。
腰をぐっと落として、ボトム・ターン。
大きな波動の中心から一歩前に太郎は出た。この一歩が、その強烈なパワーをコントロールする。
それまでの落下とはまったく違った力のベクトルが、太郎を波のフェイスへと運んでいく。
ニュージーランダーめ! 捕まえられるものなら、捕まえてみろ!
ガンのレールがメスのように海を切り裂いて、水滴が吹き流しのように飛ぶ。
左腕を開いて、振り返る。
水の断崖が崩れ落ちるのが目に入る。
・・・。このガンのスピードに波が追いつけるもんか。
そう言い聞かせて、波の頂きに駆け上がる。
先端の波の唇(リップ)は太郎を飲み込もうとするのだが、速さに助けを得たガンがそれを蹴散らす。
ここからが勝負だ!
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キミの探すものは、ココにある!
コ、コレが欲しかったんだよ!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)