鮫の背びれが、目の前を横切る。「噛みつくのなら、ライドのあとにしてくれ、ブルーノ」
もやの中で朝日が輝いた。
と、ブルーノの影が見えた。
黒い背びれが速度を上げて太郎に近づいてくる。
逃げるという考えは、湧いてこなかった。
恐怖がなかったというわけではない。すでに波の高さに身を縮み上がらせていた太郎にとって、それは別の種類の恐怖だった。
二つの恐怖が打ち消しあって、太郎の心が鎮まった。
良い波を待つ。決めたんだ。もう迷わない。最高の波を狙う。・・・。
鮫の背びれが、目の前を横切った。
この瞬間のために、僕はここに来たんだ! 噛みつくのなら、このあとにしてくれ、ブルーノ。
パドルして、岩の立ち並ぶ崖に太郎は寄った。
さあ、すべきことは分かっている。あとは、それをするだけだ。
完璧なうねりが、岬の先端から入ってきた。
波が切り立つ。
太郎はスープとフェイスの境に向かう。
赤道を伝わってきた力が、ラ・プンタによってニュージーランダーという形に変えられる。
エネルギーの頂点が、強大な爪となって空を突き上げた。
太郎はその頂きに自分の体を運んだ。
水のカールは、またたくまにボードのテールを持ち上げる。
・・・。さっきよりも、ずっとデカい。
太郎は水に落ちるのではない。何も無い宙にむかって、頭から落下しようとしていた。
目に、波の底が映った。
平らな水面が、遥か彼方に見える。
パドルをやめるのなら、まだ間があった。ここでやめれば、この波をあきらめることができた。
でも、やめるもんか!
太郎は右、左と最後の一かきをくれた。
ガンは、太郎ごと逆さまになり、空に浮かんだ。
鞭のようにしなった波の先が、背後から追ってくる。
倒れるものか!
パーリングしそうになって、太郎は自分に強く言い聞かせる。
僕は、僕の水面に行くんだ!
両腕で二つの縁 をしっかりとつかみ、水の面 に当てる。
ボードの裏が、水の表面をとらえた。
今だ!
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キミの探すものは、ココにある!
コ、コレが欲しかったんだよ!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)