サーフィン小説風メキシコ旅行記

ラ・プンタ

−18「恐怖を認める」

 

「怖くなかった」と一度は言い聞かせようとしたが、「いや、怖かった」と冷静に答えるもう一人の自分がいた。

 そして、そこにもう一度セットの波が入ってきた。

 良い波だと太郎は思ったが、パコロロは波に乗ろうとする仕草さえ見せなかった。ここにいることは仕事である、と怒ったように体で主張していた。

 ・・・。だから。だから、ダメなんだよ、パコロロ。

 がっかりするというのではなく、逆に優しく諭すような気持ちに太郎はなっていた。

 さあ、僕も乗るんだ。

 太郎は岬の先端にむかってパドルし始めた。

 これまで太郎はこんな沖まで出たことがなかったので、海の側からラ・プンタを眺めた経験はなかった。今こうして見ると、それは壁というよりも、太平洋に突き出た岩のナイフだった。ラ・プンタはその切っ先の刃を当てて、うねりの帯を美しく切り取っていた。整然と揺れてきた波の列は、ラ・プンタに切れ目を入れられたとたん、すべての力を外にむかって吹き出した。

 いま太郎はそのすぐ脇にいるのだ。

 いくつかうねりを見逃して、太郎は波の割れるタイミングをはかった。セットとセットの間隔を読み、小さめの波を狙うことに決めた。

 心を落ち着けて、最善と思える間合いでパドルを開始する。太郎を乗せたガン・ボードは、吸い寄せられるように波のピークに近づいた。

 うねりが立ち上がった。

 波の先がカールして、唇 になった。

 太郎の体がそれとともに持ち上げられる。

 テイク・オフだ!

 太郎がここであと一かきしたならば、ボードは自然と動きだしていただろう。しかし、高さに怖じ気づいてしまって、それができなかった。

 「なんで、なんで挑まなかったんだよ?!」

 太郎は自分に問いかける。

 「怖くなんかなかっただろ!」

 一度はそう言い聞かせようとした。

 だが、今日の太郎の中には、

 「いや、僕は怖かった」

 と冷静に答えるもう一人の自分がいた。

 恐怖するということ自体は、悪いことじゃないよね、ピート。・・・。

 そして、続く二度目のトライも失敗に終わった。

 ホワイト・ウォーターから体が離れすぎていたため、ボードが乗った波の部分にそれを押すだけの充分な力がなかったからだ。太郎は最後までパドルしたが、波の力がへなへなと弱まるのを感じてあきらめざるをえなかった。

 ・・・。これも、恐怖心のためだ。

 太郎は思った。

 だけど、僕はパコロロにはならない。ここで、ドナを救えなかったあの日をくり返すつもりだってないよ。

 怖くなるのはかまわない。怖くなったら、恐怖を認める。で、そいつを乗り越えて、僕は波に乗る!

  1. 箇条書き項目キミの探すものは、ココにある!

  1. 箇条書き項目コ、コレが欲しかったんだよ!