サーフィン小説風メキシコ旅行記

ラ・プンタ

−11「日本人サーファー」

 

「覚悟はできているんだね。勝手にするがいい。ただ、アタシらもアタシらの生活を守らなきゃならないからね」

 太郎は砂浜をおりきって、怪我の癒えたすねのあたりまで海に入った。そうやって、目の高さが低くなると、波はそれまでとまったく違って見えた。

 美しい青い縞に見えたうねりは、落ちる先にある物を何でもつぶそうとする巨大な力の塊だった。のんびりと間をおいて並んでいた間隔も、水際ではほとんど無いといってよかった。高さ5メートルの水の城壁が、将棋だおしに倒れていく。ほんの少しでもオン・ショアの風が陸にむかって吹いていたら、それは統率されぬ単なる混乱だっただろう。それを丘からの風がなんとか抑えて、ぎりぎりのところで均整を保っている。

 「鮫だ! 鮫がいる!」

 誰かが叫んだ。

 うねりの頂きに、長い影が黒く流れるのが透けた。子供の背丈ほどある背びれは、波をすばやく横切ると水の中に消えた。

 ブルーノめ、こんな時に、・・・。

 沖からはブルーノが見えないのだろうか、サーファーたちはかまわずにテイク・オフしてくる。

 たとえ、ブルーノがいるのがわかってたって、この波だ。やめられるもんか!・・・。

 「オー・マイ・ゴッド、オー・マイ、・・・。奴は、あの波に乗る気でいるよ」

 ティーナたちの連れの男の一人が、双眼鏡を目につぶやいた。

 そのとき、特大の波が近づいてきた。他の波を押しのけるような速さだ。それは直前の波の二倍は盛り上がって、岸から見ても閉じるのは明らかだった。これほどの量の水に押しつぶされたら、タダでは済まされない。

 まわりのサーファーたちが沖にむかって逃げだしたにもかかわらず、一人だけはパドルしながら岸に向きなおった。テイク・オフの体勢だ。

 「ノー、・・・。オー、ノー、・・・」

 「・・・、自殺行為だぜ」

 ため息のような言葉が、岸で見つめるギャラリーの中から漏れた。

 他のサーファーがかろうじて波を乗り越えて逃げるのを、彼は振り返って見つめた。

 カールした波の先が男に迫る。

 危ない、・・・!

 波が男を宙に持ち上げた。文字通り宙だ。男の体の下には、何もない。

 落ちた。頭から真っ逆さまだ。

 カールに巻かれそうになったその瞬間、男はボードに両足をつけて立ち上がった。後ろに引いた右足に体重をのせ、フィンが水面に食い込んだようだ。ボードが大きく弧を描きだして、崩れだした波を男は嘲笑うように後にしていく。

 フェイスまで来てしまえば、サーファーは自由だ。

 体の三倍もある波の面に、男は白い軌跡を描いていく。そして、インサイドまでライドだ。

 浜で見ていた者たちは、吸い寄せられるように男に寄っていった。太郎も、ボードを捨てて駆けだしていた。

 最後のショア・ブレイクでボードをくるりとカット・アウトさせると、男は何ごともなかったように沖に戻っていく。

 パドルで揺れる両肩に、長い黒髪がかかっていた。男は東洋人だった。

 「あいつは、ハワイアンかあ、・・・?」

 「ノー、チャイニーズだろ」

 砂浜に立ったサーファーたちから、驚きと賞賛の入り交じったつぶやきが漏れた。

 いや、あの人はきっと日本人だよ、・・・。

 と太郎は思った。

 さあ、今度は僕の番だ。

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