熱帯の怪我はなかなか治らない。毎日海に入って、太郎は傷を化膿させてしまった。

 熱帯の怪我はなかなか治らない。まして、毎日海に浸かっているのだ。太郎は傷を化膿させてしまった。小さいはずの傷口は、黄色く膿んで三倍ぐらいに腫れ上がっている。イネスたちには黙っていたが、どうやら熱をもっているようだ。

 「タロウ、どうしたの?」

 アニタがとうとう傷に気づいた。

 「ちょっと、波乗りしててね」

 「だって、膿んでるよ! だめだよ。そのままにしておいちゃ!」

 アニタは真水を井戸から汲んできて、太郎の砂と塩にまみれた脚をていねいに洗った。

 「レヒーノ! マッチを持っておいで」

 弟に火を点けさせて、その炎で針の先を焼いた。

 「少し痛いけど、我慢してね」

 アニタは針で傷を裂いた。粘った膿が太郎のすねを伝わった。

 「どうして、こんなになるまで放っておいたの?」

 少しの躊躇も見せずに、少女は傷に口をあて膿を吸った。

 「アニタ、汚いから、そんなことしなくていいよ」

 「きちんと手当しなければ、ダメ。あとで、大変なことになるから」

 膿を地面に吐き出すとアニタは言った。そして、ふたたび太郎のすねに口をあてた。

 力を込めて吸おうと少女の頭が揺れるのを見ながら、太郎は戸惑っていた。

 アニタは、こんなに優しいはずなのに、・・・。

 イルカにマチェーテを振り下ろすときは、平気な顔をしていた。

 生き物を殺すのを当たり前だと思ったり、小さな傷を真剣に手当してくれたり、どっちが本当のアニタなんだ!

 「待っててね、タロウ」

 アニタは裏の茂みに消えると、小屋によって戻ってきた。

 その手には、布と、葉とも茎とも見分けがつかないような緑の植物が握られていた。

 「それ、バナナ?」

 「ううん、アロエの葉っぱ」

 アニタは歯を器用に使って棘のある皮をむくと、葉の中の透明なゼリーを取り出した。

 「これを、・・・」

 アニタはドロドロとした固まりを傷口にあてると、太郎にそれを指で押さえさせた。そして、古い布を包帯代わりに太郎の脚に巻いた。

 「これ、レヒーノが使ったやつだけど、きれいに洗ってあるから」

 布の端をかたく結ぶと、

 「はい。おしまい」

 と言って、アニタは微笑んだ。母親と同じ、たくましい笑顔だった。ある時は死に鈍感になり、ある時は生に敏感になる、オアハカの赤い大地に生きる女の笑顔だった。

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