「家族を食わせるためには、グリンゴに頭下げなきゃなんねえんだ。でも、海は裏切るなよ」
「知ってるよ。お前が何が言いたいか。そうさ。俺だってわかってる、何がいけねえのか。だがなあ、生きるためには、やんなきゃなんねえんだ。そうしないと、家族を喰わしていけねえ。あいつらの言うことをきかなきゃ、俺のカバーニャ・パコロロなんて簡単につぶされちまう。・・・」
パコロロは太陽をにらんだ。陽の光が男の目に小さく点ったように、太郎には見えた。
「こんなんじゃ、なかったんだ! こんなんじゃよお! 初めてプエルトで波乗りをした頃はよ、すべてが単純で、すべてが面白かった。目の前の海で魚を捕って、その辺の木になっている物を喰って、毎日波乗りしていた。他にサーファーなんかいやしない。俺と、ときどき北から流れてくるグリンゴのサーファーだ。あいつらは魚を捕るのが下手だから、俺がつかまえてマチェーテでさばいてやった。手や体が血だらけになったが、そんなの気にならねえ。砂浜でたき火して焼けば、めっぽう美味く喰えたもんだ。その代わり、やつらはいらなくなったボードやワックスを置いてってくれた。・・・。ホテルなんか一軒も無かった時代の話さ。おとぎ話に聞こえるだろ」
パコロロの目から、すっと光が消えた。
「お前はいつまでここにいるんだ、ハポネシート?」
「わかりません。貴重品を全部取られてしまって、航空券も無いんです」
「いいなあ。何も持ってないのかあ。何もなきゃ、何も守る必要はねえからなあ。グリンゴにペコペコ頭下げる必要もねえ」
パコロロは沖を見た。
「お前はサーフィンが好きか?」
「はい」
「好きか。ムイ・ビエン。サーフィンはいいよな。ハポネシート、波乗りが好きだったらよ、海を裏切るんじゃねえぞ。一度裏切ったらよお、もう二度と海は仲間にしてくれねえ」
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キミの探すものは、ココにある!
コ、コレが欲しかったんだよ!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)