ピン・テイル、ダブル・ピン、スクエア、ラウンド。シングル・フィン、ダブル、スラスター。フィッシュも。
太郎はその日の午後をただ茫然と波を見つめて過ごしてしまった。波の大きさに魅了されて、その前を離れることができなかったのだ。
陽が傾く頃になると波はますます大きくなり、それに挑もうとする者はほとんどいなくなった。
たった一人のサーファーだけが、波をとらえては沖に戻るのをくり返していた。そのサーファーはチューブをメイクしても、喜ぶでもない、興奮するでもない、ただ事務的にひとつの波、またひとつの波と乗っていた。男は通勤電車にでも乗るようにチューブに入ると、浜に降り立った。
それは、パコロロだった。
パコロロは、あの遠くを見る眼差しで近づいてきた。目が合っているはずなのに、どうやら男の視界には太郎は映らないらしい。
「すごいですね」
太郎は、見たばかりのライドに熱くなって、思わず声をかけてしまった。
「そうか」
パコロロは、ムスッと吐き出すように言っただけだった。
しまった! やっぱりこの人に話しかけちゃいけなかった。
と太郎は後悔した。
怒っているのかな。だけど、さっきと態度がまったく違うよ。
太郎が黙ったまま立っていると、
「俺のカバーニャに来いよ。サーフ・ボードを見せてやる」
とパコロロは部下に命令するように言った。
あ!
太郎の肩に、水滴が落ちてきた。それは、瞬く間に本格的な雨となった。本物の初夏のスコールだ。うむを言わせぬどしゃ降りに、太郎は断る理由をなくしてしまった。
パコロロの家は、断崖にジグザグにかかった階段を登りきった所にあった。ティーナたちを太郎が迎えに来た建物の反対側である。二階建ての家の上の階には壁が無く、吹き抜ける風に大きなハンモックが二つ揺れていた。
「入れよ」
パコロロがドアを開けると、向かいの壁一面にサーフ・ボードが列を作っていた。
「ショート・ボード、ロング・ボード、ガン。ピン・テイル、ダブル・ピン・テイル、スクエア・テイル。もちろん、ラウンド・テイルもある。シングル・フィン、ダブル・フィン、スラスター。フィッシュはジョークみたいなもんだ」
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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