「ハロー、Mr.キーウィー。まだ、あの高いバンガローにいるのか? 俺のカバーニャなら、安いよ」
「イッツ・オーサム、メイト」
自分はキーウィーだと言ってから、体格の良い白人のサーファーはその言葉を何回も繰り返した。ニュー・ジーランド人だから、キーウィー。男は世界中の有名なブレイクを旅してまわっているらしい。
ラ・プンタに波がなかったので、ビーチ・ブレイクに来てみて太郎は驚いた。岬が拒んでしまう真南のうねりが、ここでは大きな波となって立ち上がっていたのだ。
「イッツ・オーサム、メイト! 朝、波がデカすぎて戻れなくなった奴を見たぞ。このシカテラから、あの岩を回って、マリネロまでパドルして、やっと帰ってこれたんだ。イッツ・オーサム! ブラディー・ビッグ、メイト」
「ハロー、ミスター・キーウィー」
両手を広げ大げさな仕草で近づいてきたのは、パコロロだった。パコロロはキーウィー・サーファーの手を握ると、抱きしめて、背中を叩いた。メキシコの親友同士の挨拶だ。アングロ・サクソンのニュー・ジーランド人は、ぎこちなくそれに応えた。
「プエルトに来て、何日になる、ミスター・キーウィー? 二週間? まだ、あのグリンゴのバンガローにいるの? あそこは高いだろ。俺のカバーニャなら、安いよ。それに、メキシカン・パイプラインの目の前だし、あそこからならメキシコ一の夕陽が見られる」
パコロロは、ビーチ・ブレイクの正面の断崖に立つ自分の民宿を指さした。
「イェー、アイル・スィンク・アバウティト、メイト」
砂浜には、観光客用の日除けがポツリポツリと立っていた。その傘の下には椅子が並べられ、メキシコ人の子供が来ては飲み物を売っていた。
そこで波を見ているサーファーたちの中に知った顔を見つけると、パコロロはすっとそちらに移動した。
「ヘーイ、アメリカン・チャンピオン! ハウ・アー・ユー・ドゥーイン?」
パコロロは、卑屈なほど大きい作り笑いをして言った。
チャンピオンと呼ばれた若いアメリカ人旅行者は、照れて周囲の目を気にした。
「よしてくれよ、パコ。僕は、プロでも何でもないんだから」
「ノー・プロブレム。ユー・アー・グッド・サーファー。ユー・アー・チャンピオン。俺のカバーニャに泊まった中で、ベスト・10に入るよ。ジェリー・ロペスの次にうまいかな。いい波が立ってるよ。サーフィンしないのかい、チャンピオン?」
「ノー。ユー・マスト・ビー・クレイジー。イッツ・トゥー・ビッグ」
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キミの探すものは、ココにある!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)