サーフィン小説風メキシコ旅行記

ラ・プンタ

−13「オアハカのイルカ」

 

オアハカのイルカは、ドナやパコロロと同じ目をしている。きっと、海に嫌われたイルカなんだ。

 一瞬イルカが太郎を見たような気がした。

 もしかすると、太郎ではなく、どこかもっと遠くを。

 あの目だ。・・・。

 ドナやパコロロの目だ。

 このイルカも、オアハカのイルカなんだ。

 「この国じゃ、誰かが誰かを犯すんだよ」とイネスは言った。いま犯す側にまわった女は、淡々と表情を変えずに作業を続けた。イネスの顔には、釣り人やハンターの残酷な歓びはなかった。これは、オアハカの女にとっては仕事なのだ。

 イルカの瞳から、光が消えた。

 イルカは単なる物に変わり、村人たちはマチェーテで体を切り開くと肉をそいだ。

 レヒーノもそれに加わった。

 アニタは母親の脇で手伝った。マチェーテを振る。肉を切る。アニタも一人前のオアハカの女だった。綺麗な笑顔をそのままにイネスと並ぶと、二人の力強さが溶け合って、一枚の絵となった。

 親子なんだ。・・・。

 肉をそげるだけそいでしまうと、村人たちはそれぞれの家に帰っていった。今夜はどの家も贅沢な肉料理が並ぶはずだ。アニタとイネスも夕飯の支度のためにさっといなくなった。久しぶりの肉に胸を躍らせたレヒーノも、二人にくっついていなくなった。

 砂浜には、イルカの惨めな残骸が残った。

 夜の仕事が待っていて料理をしないやぶにらみと、その子供たちはまだ帰らなかった。子供らはイルカのまわりに腰をおろして、血まみれの白い脂肪や、黒ずんだ内蔵をつかみ出しては遊んでいた。

 やぶにらみがそっと近づいて、太郎の肩を抱いた。

 「お前たち、もういい加減にそれで遊ぶのをやめな。海で血を洗って、家にお帰り」

 「なんで、母ちゃん?」

 と子供のひとりがきいた。

 「いつも、そんなこと言わないじゃないか?」

 「いいんだよ。いいから、もうやめな」

 イルカの死骸は、数日経ても浜に残っていた。腐敗する臭いがあたりに漂いはじめていた。

 殺されたドナやティーナたちも、こんな風にほったらかしにされているんだろうな。

 と肉を剥ぎ取られた友を見て、太郎は考える。

 オアハカじゃ、命の価値なんて無いと同じだ。

 でも、どうして波は沖へ運んでってくれないんだ?

 そうだ。

 きっと、こいつは、海に嫌われたイルカなんだ。

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