サーフィン小説風メキシコ旅行記

ラ・プンタ

−11「きちがいイルカ」

 

海と一つになれれば、それでいいんだ。それで充分なんだ。

 それから、一週間もたっていなかった。

 「きちがいイルカだ! きちがいイルカ!」

 レヒーノが騒ぐので、ハンモックで昼寝をしていた太郎は目を覚ました。横で寝ていた父親も起こされたらしい。ハンモックの網の中で、顔を上げて海を見ている。

 「タロウ、来てよ。見てよ、見てよ」

 波打ち際を走りながら、レヒーノが呼んだ。

 太郎が起きあがって浜におりていくと、浅瀬から急にイルカが跳び上がった。太郎は驚いて立ち止まり、イルカは腰ほども深さのないところに水しぶきを上げて落ちた。

 そして、イルカはラ・プンタの前で大きく円を描いて泳ぎ、今度は砂浜にむかって跳んでくる。

 ずん。

 鈍い音をたてて、イルカは濡れた砂の上に落ちた。

 頭の穴から、血を吹いている。

 大きな波がそれに続いて、海岸を水浸しにすると、引き際にその体を海に戻した。

 陸に上がりそびれたイルカは、砂浜に平行して立て続けにジャンプをくり返した。それに飽きると、次は円だ。二周、三周と太郎がいつもライドする辺りをひたすら回る。

 「気が狂ってるよ。このイルカ!」

 レヒーノが背びれの動きに合わせて右往左往する。

 回る勢いそのままに、イルカはふたたび岸に向かってきた。

 「だめだ! こっちじゃないよ!」

 太郎は、イルカを止めようと両手を広げて駆けだした。

 イルカは太郎めがけて直進してきて、体に当たる直前で向きを変えた。太郎は勢いに押されて、水の中に尻から倒れた。

 イルカは沖に戻ると、すぐに砂浜にむかって泳いできて、そのまま岸に体をぶつけた。砂に乗り上げただけで、引く波に戻されると、沖からスピードをつけてやり直す。

 「違うよ! こっちは海じゃないよ!」

 太郎は何度も追い返したが、イルカは陸に上がるのをやめようとしなかった。浅瀬に衝突するのをくり返し、罰するように己を痛めつけた。

 そのうち、イルカが弱ってきた。

 宙に跳ぶ力はとうに無くなり、水の中を揺れるように行き来した。やがて泳ぐこともできなくなり、ただ浮かぶだけになった。

 すると、皮肉なことに今まで邪魔をしていた波に押されて、イルカの体は浜に上がった。

 「バカ、これで満足だろ! だから、沖に戻れよ」

 イルカの黒い瞳が自分を見つめたように太郎は思った。太郎は水からあがってイルカを押したが、重い塊  はびくともしなかった。

 「レヒーノ、手伝ってよ!」

 太郎はレヒーノを探したが見あたらない。

 「肝心なときにいないんだからなあ」

 レヒーノはレストランテに戻っていたようだ。母親と一緒に小屋から出てくる姿が見えた。イネスは手にマチェーテを持っていた。

 ひどい! イルカを殺す気なんだ!

  1. 箇条書き項目キミの探すものは、ココにある!

  1. 箇条書き項目コ、コレが欲しかったんだよ!