海と一つになれれば、それでいいんだ。それで充分なんだ。

 そんなことはないよ、というのは簡単だった。しかし、それは気休めにさえならない嘘だった。

 もし自分が波乗りができなくなってしまったら、どうしよう?

 そんなのゼッタイに嫌だよ!

 太郎は今、サーフィンのために寝て、サーフィンのために食事をしていた。

 ガン・ボードを引きずりながら砂浜に上がるレヒーノを見て、太郎は胸の奥がひきつった。

 これが、イネス母ちゃんの言う「運命」なんだろうか、・・・。

 だけど、これじゃ、ひどすぎるよ。

 自分に何が起きてしまったのがよく解らないかのような、レヒーノのあどけない笑顔が、かえって残酷だった。

 「見て、タロウ! ミラ!」

 黙ってしまった太郎を逆に励ますように、レヒーノが大声を出した。

 太郎が沖を振り返ってみると、それはイルカの群だった。

 「イルカだ! イルカ !」

 レヒーノははしゃいで、沖のイルカにむかってパドルした。

 水平線近くで跳びはねていたイルカの群れは、しだいにラ・プンタに近づいてくる。

 太郎も遅れまいとレヒーノに続いた。

 「ボクらと遊びに来たんだよ!」

 ボードに腹ばいのまま振り向いて、レヒーノが叫んだ。

 「そうだよ! レヒーノに会いに来たんだ!」

 一頭のイルカが「発射台」のすぐ脇、太郎たちの目の前で大きくジャンプした。そして、美しく宙を舞って水に戻った。

 水しぶきがかかって、二人は笑った。

 そこに、セットの波がやって来た。

 イルカたちは、今度は一団となって水の壁を左から右に横切った。波を抜けてくる太陽の光が、碧 を帯びた透明な壁の中に、その影をはっきりと照らした。

 「ウノ、ドス、トレス、クワトロ。四頭だ! タロウ、四頭いるよ!」

 ひれを上下に動かして、イルカたちは波よりも速く進む。勢いあまった一頭は、波のショルダーから空に飛びだしてしまった。

 「サーフィンだ! イルカがサーフィンしてるよ」

 レヒーノは自分もイルカの群れに混じる気で、「発射台」についた。

 波が来た。

 レヒーノがテイク・オフする。

 イルカたちは少年を待っていたかのように、その波を泳いだ。

 もちろんレヒーノはボードの上には立てない。腹ばいになったままボードとともに流れていく。そのまわりを取り囲んで、イルカたちは前になり後ろになりついていく。

 「ケ・リコ!」

 レヒーノが喜びの声を上げる。

 太郎は気づいた。

 立つことだけが大切じゃないんだ。海と一つになって楽しくなれれば、それでいいんだ。それで充分なんだ。

 「タロウ、バモス!」

 波をメイクしたレヒーノが呼んでいる。

 「タロウも仲間だよ! 次はいっしょに乗るんだよ」

 そうだ。僕も一緒に波に乗ろう。

 次の波にむかってパドルを始めた太郎は、ピートのことを思った。

 ピートは必ず戻ってくる。ニュージーランダーを必ず乗りに来る。・・・。

 「レヒーノ、ブエナ・オラ!」

 「グラシアス」

 レヒーノも、ピートも、僕も、そして、イルカたちも、みんな波乗りが好きなんだ。

 そう考えて、太郎はひとりで笑ってしまった。

 でも、なんで僕らは波に乗りたいんだろう?

  1. 箇条書き項目キミの探すものは、ココにある!

  1. 箇条書き項目コ、コレが欲しかったんだよ!