「もう、サーフィンができなくなっちゃったのかな?」
「ノー。もちろん、ノー。岩が怖かったら、サーフィンなんかできないよ。でっかい波に乗りたいんだけど、なかなか来てくれないよ」
そう言いながらテイク・オフを試みて、波の悪さに諦める。
「くそっ!」
「あせるな、レヒーノ。セットの波が来るから」
水平線が黒ずんで、大きな波が近づいてきた。
「さあ 、お前に譲ったぞ」
レヒーノは勇んで波に向かっていく。間合いを計って向きなおって、パドル。そして、テイク・オフ。
「そして、テイク・オフ」のはずが、レヒーノの体は前にのめるように波の底に落ちた。
少年の見事なパーリングを見て、太郎は笑った。笑いながら後から来た波に乗ると、浜までメイクした。
「次はうまくいくさ」
ラインナップに戻ってきて太郎が声をかけると、
「もちろん、シー」
と少年はふてくされたように答えた。
レヒーノがセットの波が再び来るのを待ってテイク・オフしたとき、太郎は今度こそ乗ったと思った。
しかし、本来なら姿を現すはずである波の背に、レヒーノはやって来なかった。
また落ちたのか、・・・。
太郎はそれから何度となく岸と沖を往復したが、レヒーノが波の上に立つのを一度も見ることはなかった。
太郎がインサイドにまだいるとき、レヒーノのテイク・オフを正面から見た。
波のチョイス、パドルのスピード、テイク・オフのポジション、ボードが滑りだすまですべては完璧なのに、レヒーノはその上に立てなかった。曲がった左足がしっかりボードをとらえずに、抜けるように滑ってしまう。体重が足にまったくのらなかった。それは、まるで足の甲でボードに立とうとするかのようだった。カールのまっただ中で前足が使えなければ、頭から水に落ちる以外ない。
インパクト・ゾーンにいた太郎は、崩れた波をまともに受けて砂浜まで流された。パーリングしたレヒーノも、一緒に岸に押しやられた。
水から立ち上がった二人の目が合った。
「タロウ、どんなにやっても、ボク、立てないよ」
「・・・」
「もう、サーフィンができなくなっちゃったのかな?」
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キミの探すものは、ココにある!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)