「セニョール、セニョール!」 アニタが大声で運転手に伝える。「積み荷に火が! 干し草に火が!」

 「ドナがいなくなっちゃったの」

 アニタがぽつりと言った。

 「久しぶりにプエルトの町に来たから、ドナに会えると思ったんだけど」

 「家には行ってみたかい?」

 「シー。だけど、みんなドナがどこに行ったか知らないって、・・・」

 太郎の頭にまっ先に浮かんだのは、ゲレーロの警察のことだった。

 そいつらが、ドナを連れていったのかもしれない。もし、そうだったら、・・・。

 そうだったら、ドナはもう生きていないかも、・・・。

 奴らはティーナたちを殺したんだ。ドナを殺してもおかしくはない。

 アニタには、ドナの失踪に動揺した様子はなかった。これも、オアハカの日常の一コマと受け取っているかのようだった。干し草に囲まれて、あたりをキョロキョロしていたかと思うと、鼻をひくひく鳴らしはじめた。

 「ねえ、タロウ。変な臭いがしない?」

 そう言われてみれば、物がこげるような臭いがする。

 「あ、草が燃えてる!」

 アニタが指さす先で、高く積まれた干し草に赤い火が点いていた。野を焼く火が飛んで、燃え移ったのだろう。

 「セニョール、セニョール!」

 アニタが大声で運転手に伝えようとする。

 「火が、火が!」

 運転していた男も火事に気づいて、車のスピードを上げた。トラックがおこす風で吹き消そうという気だ。

 急に速度が速くなって、太郎たちは危うく荷台から振り落とされるところだった。二人はあわてて干し草を縛った縄にしがみついた。

 スピードが風を生むと、火は引きちぎられるように小さくなった。

 「消えたよ、消えた」

 アニタが運転席にむかって言うと、男は燃えた所を確かめるべく車を止めた。

 ところが、風がなくなったとたん、火は再び燃えはじめた。

 「アニタ、降りよう」

 太郎は、草の茂み目がけててサーフ・ボードを投げると、先に飛び降りた。

 「さあ、早く」

 太郎が腕を広げて待つと、そこにアニタが飛び込んできた。両手を伸ばし、無邪気に体ごと抱きついてきた。

 アニタの体重をあまりにまともに受けとめてしまったので、太郎はよろけて草むらに尻をついた。

 アニタはきつく太郎を抱きしめている。

 アニタ。・・・。

 薄いTシャツ越しに触れる少女の胸が予想外に豊かだったので、太郎はドキリとした。

 「タロウ、だいじょうぶ?」

 「う、うん」

 二人は立ち上がって、ほこりをはたいた。

 車は、太郎たちを残して急に走りだした。

 しかし、風で火を消すという考えは、もう役に立たなかった。火はすでに大きく燃え広がっていて、車全体を焼こうとしていた。

 「トラックはどこまで走っていく気かしら」

 「わかんないな」

 「あれじゃ、海にでも飛び込まないと消えないよね」

  1. 箇条書き項目キミの探すものは、ココにある!

  1. 箇条書き項目コ、コレが欲しかったんだよ!