「下手くそ。ドロップ・インするな! 俺のほうがピークに近かったんだ。あれは、俺の波だ」
セットの波が来た。
波のピークにむかって全員で競走だ。
ここだ!
ピークの来るポジションを太郎なりに予測しようとするのだが、波はその通りに崩れてくれない。より正確に読んだサーファーが、脇からすっと乗ってしまう。
それがこう何回も続いては、太郎も我慢しきれなくなる。
誰かが脇でテイク・オフしようとするのを知りながら、波に乗ろうとした。
「カモン、下手くそ。ドロップ・インするな!」
太郎をよけようとして、水に落ちた男が怒鳴った。
「俺のほうがピークに近かったんだ。あれは、俺の波だ」
「ごめんなさい」
男の剣幕に、太郎は謝るしかない。
太郎は男のそばを離れるように沖にパドルした。
そして、もう十五分待った。
小さなセットが来て、太郎よりも岸に近いところで割れた。
そして、また十五分待った。
同じような波が岸のそばで割れた。
もう大きなセットは来ないのかもしれない。あともう一回だけ待って、やめにしよう。
再び十五分待った。
今度こそ、少し沖で待っていた太郎の番だった。
波のピークが太郎の位置に合わせて入ってきた。水面がほんのわずかせり上がって近づいてくる。
太郎は浜へパドルを始めた。
力のないうねりは太郎の体をなんとか持ち上げたが、ボードが滑りだすほどの角度がない。
ダメかなと思いながらも太郎は懸命にパドルして、あきらめかけたときに板がスライドしだした。
しかし、そこまでだった。
乗った!
と思った瞬間に波が閉じ、それで終わりだった。
太郎は何も間違った動作をしていない。それが、今日の波での精一杯のライドだった。
テイク・オフだけのサーフィン! こんなののために何時間も待つなんて、もうやだよ。
太郎はホワイト・ウォーターの中を直進しただけで、岸に上がってしまった。
その直後だった。
「ファック・ユー!」
「ペンデホ!」
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キミの探すものは、ココにある!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)