風はないでいて、海には波が無かった。かすかに揺れるうねりさえ無かった。

            第四章


 これが、同じ海なんだろうか。

 太郎はそう思わないわけにいかなかった。

 風は凪いでいて、海には波が無かった。水平線の彼方から、この砂浜まで、かすかに揺れるうねりさえ無かった。

 その青い平らな広がりの隅で、ラ・プンタは意味もなく立っていた。

 海も空もあいかわらず真っ青で、太陽の日差しも力強いままだった。

 それなのに、・・・。

 すべてが静かで、動きらしい動きがまったく無いのだ。

 雲もなかった。

 太郎はためしに鳥を探してみたが、今日はその群れさえもいない。

 海が死んでるみたいだ。・・・。

 命を感じさせないのは海だけではなかった。

 乾燥しきった丘も、枯れた草とむき出しの赤土で、傷んだ古壁のようにひび割れていた。

 レヒーノの瞳にも、生き生きとした子供らしい輝きがなかった。骨を折っていらいハンモックに横たわり続け、歩き回る太郎を妬ましげに見た。考えることも卑屈になった。

 「タロウは、僕を疑っている」

 「タロウは、そんなこと思ってないわ」

 アニタが諭しても、レヒーノは聞き入れなかった。

 「タロウは、ボクが呪いをかけたって信じてるんだ」

 「呪いなんて、そんなもの僕は信じてないよ」

 「でも、毎朝、起きて波がないと、ボクをにらむじゃないか!」

 「あんたがいけないのよ、レヒーノ。お前が最初に、『波が立たないようお願いしてやる』って«グアダルペの処女»にお祈りしたのよ」

 「だって、ずるいじゃないか。ボクは怪我をして波乗りができないのに、太郎だけ楽しむなんて」

 「いじわる。自分が楽しめない分までタロウに楽しんでもらいたいって、どうして思えないの? そんな悪い子の言うことなんか«グアダルペの処女»はお聞きにならないわ」

 「そんなことないやい。ボクの言うことを聞いてくれたから、ちゃんと波がないじゃないか」

 「やっぱり」

 と太郎は言わずにはいられない。

  1. 箇条書き項目キミの探すものは、ココにある!

  1. 箇条書き項目コ、コレが欲しかったんだよ!