この村には、他人のために金を払う余裕のある人間はいない。「それが、アタシの息子の運命なんだよ」
その晩レヒーノは熱を出した。
寒いよ、寒いよ、と震えていたが、イネスが作った熱いチョコラーテを飲んで、今はハンモックで眠っている。左の足首にはイネスが拾ってきた板が当てられ、包帯代わりの古布がきつく巻かれている。
アニタは弟の怪我した足をじっと見つめていた。
「明日朝一番に病院に連れていこう。そうすれば、心配はいらないから」
太郎が少女の気持ちを思って優しい声で言った。
「その必要はないよ!」
夕飯の後片づけをするイネスが、小屋の中から冷たく言い放った。
「うちには、医者に診てもらう金なんか無いよ!」
「金」という言葉に、アニタはビクリと体を震わせた。
「村のみんなに頼んで、少しずつ協力してもらったらいいじゃないですか!」
「医者に払う金なんかこの村には無いよ」
アニタの目から涙があふれ出した。
「嘘だ! 村の人たちに金がないなんて、嘘だ。ナビダのときには、一週間も酒を飲んでご馳走を食べ続けてたじゃないですか!」
「タロウ、ナビダはナビダだ。年に一度の祭り なんだから。それがあるから苦しくとも、たえていけるのさ。この村にはナビダのために金を使う人間はいても、他人のために金を払う余裕のある人間はいないよ」
「でも、それじゃ、レヒーノの足が!」
「もしカタワになるしかないのなら、それがこの子の運命なんだよ」
「そんな、・・・」
トップ » 第三章 少年サーファーは、少女がオンナに、自分が大人になることに耐えられるか? » 50 それぞれの運命
キミの探すものは、ココにある!
コ、コレが欲しかったんだよ!
ホーム / 第一章 / 第二章 / 第三章 / 第四章 / 第五章 / 作者から、みなさんへ / リンク
小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
Copyright(C) Naoto Matsumoto All rights reserved.
旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)