サーフィン小説風メキシコ旅行記

ラ・プンタ

−46「カット・バック」

 

「カット・バックができるようになっていたのか!」

 テイク・オフする瞬間にも、太郎は男の表情が気になって仕方がなかった。この、全神経が集中する瞬間に、考え事をするなんて、いつもならあり得ない。

 ボトムにおりながら立ち上がり、太郎は左肩を開くように体をねじった。レールが水を切り、ボードがスライドする。

 太郎は振り返るように波を見上げた。

 この波のせいじゃない。こんな波にビクつくわけがない。

 いったい、あの人は何を見つめていたんだ?

 ボトム・ターンの勢いそのままに、太郎の体は波の先端へと登った。右腕を後ろに引くとボードは容易に向きを変えた。顔が下を向いて、波の底に待つ青い水面が目に飛び込んできた。

 海面が近づく。

 太郎は落ちていく先を睨んでいるのだが、そこに視線の定まらない男の眼差しが浮かんできてしまう。

 ・・・。この目は、ドナの目だ。

 ホワイト・ウォーターが波の頂きから崩れてくるのが、視界に入った。再び加速した太郎の体は、Uの字を描くようにその白い波へ近づいていく。

 ・・・。あのときの、あの目だ。・・・。

 フックのホワイト・ウォーターに触れると、ボードの先は自然に下を向いた。太郎は再びボトムへと大きく左に弧を描く。背中側から崩れた波が押し寄せてきた。

 ドナのも、あの人のも、あれは何かを見つめている目じゃない。目に映るものを、あえて見まいとする目だ。

 ・・・。何でこんな人が、今日になって急にここに来たんだろうか?

 背後の波から逃げるように、太郎はできる限り遠くへとボトム・ターンした。そして、波の端のショルダーを越えた。ボードの勢いはとたんに弱まり、テールが水にもぐりはじめた。太郎は重心を落として、両手でボードをつかみ横になった。

 「カット・バックができるようになっていたのか、タロウ?」

 ピートにそう言われて、太郎は初めて自分がカット・バックをしていたことに気づいた。そもそも男の目が気になったいて、声をかけられるまでピートが海に入ってきたことに太郎は気づいていなかった。ピートは、太郎と並んで、沖にむかってパドル・アウトするところだった。

  1. 箇条書き項目キミの探すものは、ココにある!

  1. 箇条書き項目コ、コレが欲しかったんだよ!