インディオの中年女の素朴な胸が、ここに来いと待っていた。

 やぶにらみは太郎を助けた経緯を話し出したが、イネスはそんなこと聞いてはいなかった。両腕をさっと広げて、太郎にむかって駆けだして来た。がっちり横に張り出た体が、砂を蹴り上げながら走って来る。インディオの中年女の素朴な胸が、ここに来いと太郎を待っていた。

 イネス母ちゃん!

 太郎がその中に飛び込むと、イネスは褐色の太い腕にありったけの力を込めて抱きしめた。

 「タロウ、ごめんよ、ゆるしておくれ」

 太郎は砂にひざまづいて、小さな女の大きな乳房に顔をうずめた。そして、耳元にヒンヤリとしたものを感じて、イネスの頬が涙に濡れているのを悟った。

 「タロウを追い出したりして、アタシは頭が狂ってた。ここは、お前のウチなんだ。お前は、もうアタシの子なんだよ」

 イネスは太郎の顔中にキスの雨を降らせた。

 「だから、約束しておくれよ。あのグリンゴやサパティスタとはもうつき合わないって!」

 女の腕の中で、太郎は何度も何度も首を縦に振った。

 「タロー、タロー!」

 アニタとレヒーノだった。カレテラへ登る近道を駆け降りて来る。

 「どこに行ってたの、タロウ? 心配したんだから!」

 「村中を探し回ったんだぞ!」

 姉弟は太郎に抱きついた。

 アニタの頬にも涙が光っていた。

 「タロウが戻ってきた! タロウが戻ってきた!」

 レヒーノは太郎の体に腕をまわしながら、嬉しくて跳びはねている。

 「もう、どこにも行っちゃ駄目だからね」

 アニタは太郎の背中からバック・パックをおろした。

 「そうだよ。これは、ボクがあずかっとく」

 姉の手から荷物を横取りすると、レヒーノは自分の肩に担いでしまった。

 「もうこれで、タロウはラ・プンタから出てけないゾ」

 そう言いながら、幼い少年はバック・パックの重さにフラフラしている。

 「ちっ! いい加減にするといいさ。アタシはもう構ってられないよ」

 やぶにらみは捨てぜりふを残して、自分の家の中に入ってしまった。

 姉弟の父親はハンモックの中で寝ていたが、首をもたげて様子をうかがうと、嬉しそうに遠くから微笑んだ。

 「さあ、タロウ、腹が減ってるんだろう? ナビダの料理の残りを温めなくちゃね」

 イネスは前掛けで目元を拭った。

  1. 箇条書き項目キミの探すものは、ココにある!

  1. 箇条書き項目コ、コレが欲しかったんだよ!