ホーボー(浮浪者)の耳たぶに、小さな銀のピアス。それは、少年とロング・ボードをかたどっていた。
「ノー!」
太郎は飛びのいた。
「お、お金を持ってません」
「何だって?」
「アニタに全部あげちゃったんです。僕はお金を持っていません」
「何だよ! それならそうと先に言いなよ! まったくお前は役立たずなんだから!」
やぶにらみはハイヒールを脱ぐと、腕を組んだ。
「やめだ、やめだ。もう今夜はやめだ。どうせ仕事がないんだ。もう、やめだ」
そして、海におりるほうへ裸足で歩きだした。
「どこに、行くんですか?」
太郎は独りになるのは嫌だった。たとえ、それがやぶにらみであっても、今夜は誰かと一緒にいたかった。
「アドキンさ。メスカルでも見つけて、今日は酔っぱらうよ」
Sの字に大きく曲がった道を、やぶにらみはどんどん下りていった。
「タロウ、お前も来たかったら、おいで。どっか眠れる場所を見つけてやるからさ」
アドキンとは、六角形のタイルのことである。マリネロの浜の二百メートルほどの通りには、そんなタイルが敷きつめてあった。その両側には小さなホテルやレストランが並び、プエルトの人間はその一画を「アドキン」と呼んだ。
「早くおいで」
太郎はやぶにらみの後についていった。
アドキンにも人通りはなかった。海から吹く風が巻いて、道に落ちたゴミを運んだ。
やぶにらみと太郎がゆくと、どこからともなく二人の男が現れた。腹の出たメキシコ人の中年男と破けた服を着たホーボーだった。二人ともお世辞にもきれいと言える格好はしていなかった。特に、ホーボーは服のいたるところにシミをつけ、長くボサボサに伸びた金髪はもう何年も洗ってなさそうだった。二人は肩を組んで手にボトルをぶら下げていた。
やぶにらみが中年男に話しかけた。金髪のホーボーは、視線の定まらない青い目でそれを眺めている。
ホーボーの耳たぶにキラリと光るものがあった。小さな銀のピアスだった。それは、ロング・ボードとその脇に立つ少年をかたどっていた。
サーファーのなれの果てかあ、・・・。
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キミの探すものは、ココにある!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)