「出ていってくれ、タロウ」 そう言われたが、謝罪の言葉がどうしても口から出なかった。
「男と寝たからって、警察はアタシたちをほっといてくれるけどね、«クスリ»と関わったら、アタシらはラ・プンタに住んでいられなくなる」
「サパティスタは弱い人を守るために戦ってるんです。«クスリ»はその手段なだけなんです」
「そのサパティスタのほうが、ずっと危険なんだよ。村にも、いるけどね、ヘスーサの話を聞く奴が、・・・。いつか殺される。いつか軍人に殺されるよ。お前みたいな余所者にはわからないかも知れないが、・・・」
太郎はここでも「よそ者」だった。
「アタシはどんなことがあっても、この生活を守るよ。アタシは弟を犠牲にしたんだ。弟を殺してこの生活を守ったんだ。もう怖いものがあるかい!」
太郎は黙って下を向いた。
「さあ、もうわかったろ! 出ていってくれ、タロウ」
アニタとレヒーノが驚いて、母親を見上げた。
「お前がここに来て以来、アタシは心配のしどおしだったんだ。グリンゴとつき合ってサーフィンをするのなら出ていってくれ!」
半年近くためていた不安を一気に吐き出して、イネスはホッとしたように太郎には見えた。
ごめんなさい、もう二度としません、と謝ろうか。 サーフィンなんかしません。ピートともつき合いません。・・・。
そうすれば、許してくれるかもしれない。好きなことができなくとも、ここにいれば少なくとも食べ物と寝る場所の心配はない。
ただ謝罪の言葉がどうしても口から出せなかった。
太郎は小屋に入って荷物をまとめた。そして、黙ったままレストランテ・イネスをあとにした。背後から誰かが止めてくれることを期待したが、アニタも、誰も、何も言ってはくれなかった。
外へ出たところで、行く場所がたくさんあるわけではない。太郎は暗い小道をピートの家にむかって登った。十字架が、月の光に照らされて、ぼんやりと白く闇に浮かんでいた。太郎はそれを頼りに歩いた。村にポツリポツリと建つ家から、ときおり笑い声が漏れてくる。彼方から賛美歌がかすかに聞こえたような気がした。
「ピート」
藪とも垣根とも区別のつかない茂みの陰から、太郎が呼んだ。
返事はない。
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)