サーフィン小説風メキシコ旅行記

ラ・プンタ

−30「化粧を落とせ!」

 

日焼けした乱暴な手は、化粧を落とそうと激しく動いた。「 タロウ 、痛いよ」

 そのとき車が走り去る音がした。やぶにらみは、待ちきれずに行ってしまったのだ。

 「さあ、来るんだ」

 太郎は、アニタを海のほうへ強引に引っぱった。砂にハイヒールを取られてアニタは膝をついたが、太郎はそのまま海岸を駆けた。赤いハイヒールが脱げて、白い砂浜に転がった。

 「こんなもの、子供が顔に塗っちゃだめだ!」

 波打ち際で海の水をすくい、太郎は必死になってアニタの化粧を落とした。アイラインが水に溶け、顔一面が黒いまだらになった。洗う手に太郎が力を込めすぎたのか、

 「痛い!」

 とアニタが悲鳴を上げた。太郎が擦りつづけると、たえきれなくなって二つのまなじりから涙があふれた。それでも、日焼けした乱暴な手は、真っ赤な口紅を落とそうと激しく動いた。

 「痛いよ、タロウ」

 ついにアニタは声をたてて泣きだした。それでも、太郎は少女の顔を洗うのをやめなかった。太郎の頬にも何かが流れ、口に入った。かすかに塩の味がした。

 波のしぶきだ! しぶきに決まってる。

 水平線に落ちていこうとする夕陽が、膝まで海に浸かったふたりのシルエットをくっきりと描いていた。

 やっとのことで、アニタの素肌に塗りたくられた化粧が落ちた。見慣れた十二歳の顔が甦った。最後の仕上げに両手で水をすくい取り、太郎はアニタの顔を流した。

 「タロウ、ひどいよ」

 「・・・。アニタ?」

 「え?」

 「波乗りするか?」

 「・・・」

 「ボードを貸してやるから、服を替えてこいよ」

 少女は小さくうなずくと小屋に戻った。そして、いつものTシャツに着替えると砂浜を駆けてきた。

 「ターロー」

 アニタの普段の元気な声だ。

 茂みの陰の隠し場所からサーフ・ボードを取りだして、太郎は海に入った。

 アニタも水に飛び込んで太郎を追ってくる。水でTシャツが濡れ、裸も同然だ。そんな姿をかまうことなく、アニタは足が立たなくなると泳ぎだした。そして、太郎からボードを受け取ると、テイク・オフ・ポイントについた。波はやはりアニタを待っていたかのようにやって来て、少女を運んだ。空でもつかまえるかのように両腕を広げて、大きなボトム・ターン。波のフェイスをアニタは優雅に上下した。太郎がくやしくなるほど完璧なライドだ。

 太郎の脇を通り過ぎるとき、アニタは少年たちの真似をして、

 「イー、ハー」

 と叫んでみせた。

 その目元に、青のアイシャドウがかすかに残っているのを太郎は見た。

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