やって来た弟ドメニコの霊に導かれるように、イネスは小屋を出た。
やって来た霊に導かれるように、イネスは小屋を出た。
「警察はすぐ来たよ。警察官が二人さ。銃を持ってさ。お前を呼び出してさあ。銃声が二発聞こえたよ! ラ・プンタの部落中に響いたもんだ」
涙と鼻汁で濡れた褐色の顔が、夜の岬を向いていた。
「あの岩だ! あそこにお前は浮いていたのさ! 鮫が、ブルーノがすぐやって来た。お前の身体は、すぐ足元さ。だけど、引き上げられない! ・・・。鮫がお前を食いちぎった。アタシは、ただ、それをぼけっと見てただけなんだよ!」
イネスは宙にむかって両手を広げた。
「ゆるしておくれよ! ゆるしておくれよ、ドメニコ! 聞いてるのかい?! ゆるしておくれよ」
イネスは暗い海にむかって歩きだした。
「イネス母ちゃん、だいじょうぶ?! イネス母ちゃん」
太郎が止めようとしてすがりつくと、イネスはそのまま引きずって水の中に進んでいった。
「ドメニコ、ドメニコ!」
「目を覚まして! 誰もいないよ、イネス母ちゃん!」
大潮で引きに引いた海の中を、二人は「発射台」のすぐ手前まで歩いた。
そこにセットの波が入ってきて、二人を岸まで吹き飛ばした。
そして、夜が明けて、太郎はいま同じ場所にいる。
気味が悪くないわけではなかった。ただ、波があるのに陸でボケッとしているのは、もっと嫌だった。
そんな気分でパドル・アウトしたので、なかなか波乗りに集中できなかった。確かに、昨夜のことが頭に残っている。
死んだ人間は、どこに行くんだろう?
ついつい、そんなことを考えてしまう。
人は、いったい、どこに消えていっちゃうんだろう?
死んだ人間も、・・・、そして、まだ生きている人間も。
・・・。よそう。それを考えるのはよさなきゃ。
「今日は哲学的だな」
ラインナップでピートが話しかけてきた。
「だけど、ボンヤリしていると良い波を乗りそこなうぞ。今日はセットとセットの間隔が長いから、一度のがしたら二十分は待たなくてはならない。来たぞ。行け!」
トップ » 第三章 少年サーファーは、少女がオンナに、自分が大人になることに耐えられるか? » 26 ドメニコの霊
キミの探すものは、ココにある!
コ、コレが欲しかったんだよ!
ホーム / 第一章 / 第二章 / 第三章 / 第四章 / 第五章 / 作者から、みなさんへ / リンク
小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
Copyright(C) Naoto Matsumoto All rights reserved.
旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)