サーフィン小説風メキシコ旅行記

ラ・プンタ

−8「グーフィーのみ」

 

ラ・プンタにはレフト・ハンダーの波しかない。グーフィー、オンリー。ただ、左に行くのみ。

 ラ・プンタにはレフト・ハンダーの波しかないといってよかった。ラ・プンタの波は、岬の中ほどにある大きな岩に当たって、浜から見ると、むかって左から右へ崩れていく。これは、うねりがどんな方向から入ってきても、まず変わることがなかった。ごくまれに、フリーキッシュなライト・ハンダーがインサイドよりも岸に近いところで割れることはあった。だが、あまりにも短いライドで、冗談で乗る以外あまり楽しみがいのある波ではなかった。

 これは右利きの太郎にはすこし厄介だった。

 なぜなら、野球の右バッターと同じ格好でボードに立つ太郎は、常に波のフェイスに背を向けてライドすることになるからだ。波に背を向けると、まず波の動きが見づらくなる。波のピラピラとしたトップがいつ崩れるのか、このサーファーの最大の関心事がわからなくては、波乗りができない。それから、常に波側に保って置かねばならない重心が、太郎の背中のほうにくるので、バランスが難しい。ラ・プンタのような向きの波をグーフィーと呼んで、毛嫌いして乗らない右利きのサーファーもいる、とピートが話してくれた。

 テイク・オフできる確率が上がってきた太郎は、波に乗ってただまっすぐ行くだけなのが歯がゆくてならない。背中側である左に行けさえすれば、それまでの三倍は長くライドできる。ライドの長さは、サーファーの幸福の量なのだ。

 「ピート、教えてよ。どうしたら左に曲がれるの?」

 「体で曲げようとするんじゃない。ボードに曲がってもらうんだ」

 砂の上で、ピートは何度も実際にやって見せてくれた。

 「ボードに立ったら、腰を落として加速度をつけるんだ。波のボトムに来たら、尻を突き出すようにして重心を移動する。縁 が水を削って、ボトム・ターンだ。簡単さ」

 簡単なのはわかってるよ! でも、その簡単なことができないから、頭にくるんじゃないか!

 波の上の太郎は、体だけ左に向けて、まっすぐ滑るボードに惨めに立っている。

 「発射台」からまっすぐ行くと、そこは岩だらけの浅瀬だ。まだまだボードは気持ちよく滑っているのに、浅瀬の手前でわざと倒れなければ岩に直撃だ。倒れるときも、腕で後頭部と顔を守ってと気を使わねばならない。

 違うんだよ。こうじゃないんだよ。僕のサーフィンはもっとかっこいいんだ。頭の中のイメージと現実のギャップはなかなか埋まらない。

 「曲がれなければ、曲がれないで、いいじゃないか。大切なのは楽しむことだ」

 そうピートに言われて、太郎はいい事に気づいた。

 曲がれないのなら、最初から斜めに乗ればいい!

 テイク・オフするときに、太郎は右手をはなすタイミングを少し遅らせてみた。カールした波のフェイスを滑り落ちながら右手を引くと、左側のレールが波に食い込むではないか。すると、ボードははじめから左を向いて滑りだす。

 これだよ!

 太郎は嬉しくて、

 「イー、ハー」

 と声を上げた。

  1. 箇条書き項目キミの探すものは、ココにある!

  1. 箇条書き項目コ、コレが欲しかったんだよ!