ブリキの缶を開け、シンナーのようなきつい匂いのする透明な液体をボードに注いだ。
それを見ていたピートが、
「これを使うかい?」
と自分のボードを差し出したが、レヒーノはそれに手を触れようとはしなかった。
半分になったボードは、二つとも砂浜に打ち上げられていた。
レヒーノはそれを拾おうともせず、肩を落として小屋に戻っていった。
椰子の葉を編んだ軒の前にぽつんと腰を下ろして、幼い少年はしばらくサーフィンを見ていた。やがてあきたのかハンモックに横になり、いつの間にかいなくなっていた。
潮が満ちてきて、波が厚くなり割れなくなってきた。
残ったふたりも海から上がることにした。
ピートは自分のボードと一緒に、二つのボードの切れ端も脇にかかえた。
「そんなものどうするの?」
「このままじゃ、レヒーノがあまりに可哀想だからね。まだ陽が高いから、そんなに時間はかからないだろう」
そう言って、十字架のある家へとピートは丘の小道を登っていった。
何をするんだろう?
そう思った太郎はあとからついて行った。
ピートの家には天井などないのだが、葉でできた屋根の下の横木が上手くその役割を果たす。そこにサーフ・ボードを横たえると、ピートは家の奥から木製の台を出してきた。
台には音叉のようなUの字型の部分が二カ所あり、そこにそれぞれ半欠けボードを差し込むと、一枚に合わせることができた。ボードのつなぎ目には、割り箸のような木ぎれを埋め込み支えにする。ガラス繊維を広げて、適当な大きさに切ると、ボードの継ぎ目に帯のように巻き付けた。そして、ピートは部屋の隅にあった大きなブリキの缶を開け、シンナーのようなきつい匂いのする透明な液体をボードに注いだ。
「何、それは?」
「レシンさ」
「これが乾燥すれば、硬くなる。メキシコの太陽は熱いから、すぐに乾く。それまで、コーヒーでも飲むか、タロウ?」
太郎のために水を沸かすと、ピートは«葉っぱ»を巻いて火を付けた。
「簡単にサーフ・ボードを直しちゃうなんて、すごいね、ピート」
「バハ・カリフォルニアやインドネシアには、デカい波でボードを折るサーファーがけっこういるんだ。これができると、それだけで食べていける」
コーヒーを飲みながら、トードス・サントスやウルワトゥの話を聞いた。今の太郎には想像もつかないような波の話だった。
「さあ、乾いた。紙ヤスリで擦れば、出来上がりだ」
明くる朝になると、砂浜に、捨てられたように無造作にそのボードが置かれていた。
レヒーノはそれを見つけると、一日中ラ・プンタで遊んだ。
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)