「ボクもサーフィンするんだ」は継ぎ足しボードを海に浮かべ、沖へむかって泳ぎだした。
「母ちゃんはずるいや! タロウが丘の上のグリンゴ(アメ公)の板を借りてるってのを知ってるくせに!」
レヒーノは涙を目にためて怒鳴った。
母親イネスは太郎を見た。
太郎はうつむいていた。
「アタシは知らないよ」
イネスは太郎を見つめながら言った。
「タロウ、本当かい?」
太郎が答えるまでもなかった。イネスが知らないわけがない。
「タロウもずるいや! 母ちゃんもずるいや! なんでタロウが良くて、ボクはダメなんだよ!」
「駄目なものは、ダメだ。タロウはいいなんて、言ってやしない。二人ともダメだ」
「ヒドいや! そんなのヒドいよ! タロウがサーフィンしてるの母ちゃんは知ってて、ボクだけダメって言うんだ!」
「レヒーノ! 聞き分けのない子は、これだよ」
母親は右手を挙げた。
「あの«おかま»とつき合ったら、しょうちしないよ!」
母親の剣幕にレヒーノは泣き出していた。
「タロウがいけないんだ! ケチのタロウが板を貸してくれないから、こういうことになるんだ!」
レヒーノは家を飛び出して、裏の丘を駆け登っていった。
それが昨日の出来事だった。
小屋の脇で何かをしていたとと思ったら、レヒーノはラ・プンタのほうへと砂浜をおりてきた。ニコニコと笑いながら、なんと、サーフ・ボードをかかえている。
「どうしたんだい、そのボード?」
太郎が尋ねると、嬉しそうにボードを見せた。
どこで拾ってきたのだろうか、ボードの前半分が太郎の半欠けボードにくっ付けられていた。ガムテープでぐるぐる巻きにされた胴体から、添えられた板きれがはみ出しているものの、なんとか一枚のボードになっていた。
「ボクもサーフィンするんだ」
レヒーノは継ぎ足しボードを海に浮かべ、沖へむかって泳ぎだした。
無論そんなボードが役に立つわけはない。小さな波に一度叩かれただけで、簡単に二つになってしまった。
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キミの探すものは、ココにある!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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旅の準備も、晩ご飯も、届けてくれたら、ありがたい。(M)