穴の中に、孵化したばかりの、子供の海ガメが、無数に折り重なり息絶えていた。
しばらくどこかに消えていたかと思うと、レヒーノは小さなカメを手に戻ってきた。
カメは、レヒーノの掌の上で少しも動かなかった。
「どうしたの、レヒーノ? それ、死んでるの?」
「うん。こっちで見つけた。おいでよ」
太郎がついていくと、大きく盛り上がった砂丘の陰に、いくつか穴を掘り返した跡があった。
「卵を探してたんだけど、見つかんなかった」
空いた穴には、卵の殻が残っていた。
その穴のひとつに、孵化したばかりの海ガメが無数に折り重なって死んでいた。子ガメの死体をレヒーノがすくい上げて、砂の上に落とした。
「潮のせいだよ。生まれたときに、運悪く水が穴の口をふさいじゃったんだ」
カメは生きているときとまったく同じ姿をしていた。ただ眠っているだけだと言われれば、太郎はそれを信じたことだろう。ただ、命だけがそこから去っていた。
「濡れた砂に閉じこめられちゃって、海に出れなかったんだ。まだまだ、たくさんあるよ」
レヒーノは小さな死体を次から次へと外に出した。
太郎は放り出された死骸を手に取ってみた。それは、太郎の手の上でも、もちろん動かなかった。
卵から孵って、これから地上に出ようとして、泥の中で窒息するカメの姿を想像した。
自分だって、もう少しのところでこうなっていたのだ。
そう思うと、魂の抜けた子ガメを見ているのが怖くなった。
太郎は砂に膝をついて、子ガメを穴から出すレヒーノを手伝った。
ひととおり出し終えると、セットの波が来た。
大きな波が太郎たちの足元まで押し寄せてきて、引き際にカメの亡骸(なきがら)を海に運んでいった。
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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