この感覚が永遠に続けばいいと思うのに、そうはいかない。
た」と今度は太郎の笑う番だっ
た。
立ち上がるまで、自分が裸同
然だということをアニタは気づ
いていなかった。
胸までまくれたシャツを引っ
ぱるときでさえ、それが恥ずか
しいことだとは思っていないよ
うだった。
「おいでよ、タロウ」
と何事もなかったかのように
すがすがしく言うから、太郎も
「ようし」という気になって
戻った。
「いい、タロウ?」
次の波は、もっと大きかっ
た。
波自体の力が強かったので、
アニタの助けはほんの少しで充
分だった。水面はしっかりと太郎の体を持ち上げて、泳ぎだす前からすでに上手くいく予感があった。
ゆっくりとしかし力を込めて腕をまわす。
滑る、と思ったとたん、もう体はカールした壁を落ちていた。
これだ、この感覚だ。
体の重さと波の力が平衡を保っているところに、新たな力が加わった。その前に進む力のために、すぅーっ
と、自分の体重を感じなくなる。体の下に何もないようで、そのくせきっちりと腹を支えている。
宙に浮いているみたいだ、・・・。
なめらかな水面が下にある。
そこに落ちていくはずなの
に、その距離は少しも縮まら
ず、自分はやはり高い所にい
る。
前へ、前へ、飛んでくよ!
この感覚が永遠に続けばいい
と思うのに、そうはいかない。
数秒前まで真っ青に輝く水面
は視界のすべてを満たしていた
のに、今はほんの少ししか残っ
ておらず、あとは白い砂浜が占
めている。
波の力が弱まってきた。
太郎の目の高さもだんだん低
くなっていく。
そして、最後は波の力が尽き
て、太郎は白いさざ波と一緒に
着地した。
赤ん坊のようにはいつくばった格好は、気にならなかった。自分を運んだ水がふたたび海に戻っていく流れ
が、心地よい。
すばやく沖に戻ってきて、アニタに呼びかけた。
「もう一回いいかい?」
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キミの探すものは、ココにある!
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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