太郎はもういても立ってもいられなくなった。岬への最短距離を走るべく、熱帯の草むらの中に突進した。
流れた赫土がカレテラにあふれ出していた。痩せた子供たちがその土を取り除いては、通過する車の運転手に小銭を求めている。
太陽は思いもよらぬ早さで水平線に近づいていった。
あと一時間もつか、三十分か。
太郎は足を運ぶスピードを上げた。道は長い下り坂になったので、駆けるように体が前に進んでいく。
ここにきて集落が途切れた。あたりは、ただ緑の草が一面を覆うばかりである。海岸からは遠ざかっ
た気さえする。
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キミの探すものは、ココにある!
コ、コレが欲しかったんだよ!
ラ・プンタに行くんだ。
・・・。
食事と睡眠のせいだろうか、太郎の体は少しも疲れていなかった。歩く早さが、目的地に近づくにつれ増していった。
そして、草の途切れた場所に出た。わずかの空間だが、道の脇の一画の草が無くなっている。
太郎はそこに立った。
見えた!
草の合間から海がのぞいて、そこに突き出た岬が見えた。
となると、太郎はもういても立ってもいられなくなった。岬への最短距離を走るべく、草むらの中に突進した。
熱帯の草木は太郎の行く手をさえぎり、前進する少年の肌を容赦なく切り裂いた。
地面をはうツタや、盛り上がった木の根。つまづいて、太郎は何度も転んだ。倒れては立ち上がることを繰り返すうち、けもの道に出た。
道は曲がりくねって、草木いがい何も見えない。自分がどこに向かっているのかも分からなかった。
でも、走った。メクラ滅法、走った。
突然、太郎の視界が広がった。草むらはそこで終わり、そこから白い砂浜が広がっていた。
ラ・プンタだ。・・・。
太郎は、父の写真の岬をそこに見た。
陽がどんどん落ちて
いくよ。
ラ・プンタはまだ見
えないのか?
長い坂の先に、大き
な木が見えた。
そこまで、いったい
どれくらいの距離があ
るのだろうか。
歩くんだ。
・・・。
太郎は、ずんずんと
海岸段丘を突っ切って
いった。
カレテラ(国道)は
丘を正確に半分に分け
ていて、その上半分に
は貧しい人たちの住む
小屋がポツリポツリと
立っていた。
わき道は当然舗装な
どされてはいず、雨で
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小説「ソウル・サーフィン(セネガル・カサマンス州カップスキリング岬にて)」
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