「55ペソ。三階の奥の突き当たりだ」

第一章

 

「母ちゃんは、どこだ?」

「母は、日本です」

「じゃ、父ちゃんと一緒か?」

「・・・」

 父のことをきかれて、太郎は言葉に詰まった。父親が今どこにいるのか知らなかった。

 安ホテルの薄暗い電球が、細長い通路を照らしていた。鉄格子に守られたフロントの中で、男はサッカーの試合を見ていた。バック・パックを背負った太郎を、ジロジロと観察した。

 「一人旅には、まだ早いだろ。ぼうず、年はいくつだ?」

 「十六です」

 「六歳の間違いじゃネエのか?」

 「ホ、ホントです。嘘じゃありません」

 そのとき<ザゲ>がゴールにむかって突進した。<ザゲ>はこの国に住んでいたころ好きだったので、ドリブルする姿を見るだけで、太郎にもすぐにわかる。

 「しょうがねえな」

 男は画面から目が離せなくなって、

 「55ペソ」

 と言いながら鍵を投げてよこした。

 「三階の奥の突き当たりだ」

 階段の踊り場で、太郎は降りてくる男女とすれ違った。女は、体に張り付くようなピンク色の服を着ていた。腹の出た小柄な男は、女の豊かな腰に手をやっている。

 三階の廊下は曲がりくねっていた。歩くと、よその部屋の音が全部つつぬけだ。

 「チンガ!」

 「カブロン!」

 ある部屋の前を通ると、中で激しく口論をしている。怒鳴り合う声はスラング混じりで、上品な学校でスペイン語を習った太郎には理解できなかった。

 廊下の行き止まりに着いた。部屋に入ってドアを後ろ手に閉めると、太郎はバック・パックを床の上に投げ出した。ベッドに腰掛けて一息ついたが、鍵が気になってもう一度立ち上がった。

 ノブを回して確かめた。

 だいじょうぶ。鍵は、ちゃんと掛かるみたいだ。・・・。

 太郎はベッドの上に大の字になった。

 「疲れた」

 ウトウトしかけた時だった。窓の下から、銃声がした。

 怒鳴り声がして、銃声が二発続いた。パトロール・カーのサイレンの音がけたたましく鳴りだした。

 外から姿を見られまいと、太郎は四つに這ったままカーテンを閉めた。

 ・・・。メキシコなんかに、戻ってくるんじゃなかった。中二のときの同級生はみんな帰国しちゃって、もう誰も残ってやしないんだ。

 太郎はトランクスのポケットから一枚の紙切れを取り出した。そこには、母親の所属する新興宗教のメキシコ教場の住所が書かれていた。

 「何かもしもの事があったら、パパの会社の人じゃなくて、ここに連絡しなさい」

 別れ際に言ったタエコの言葉は、はっきりと頭の中に残っている。

 電話をかけようかと思わないわけではなかったが、こすった目にうっすらとにじんでいた涙に、かえってそれができなくなった。

 まだ、日本を出てから二日しかたってないじゃないか。これしきのことで、・・・。

 紙切れは、ポケットの奥にねじ込んだ。

 サイレンの音が響いた。

 とにかく、今夜は寝ないほうが安全だ。・・・。

 太郎はテレビのスイッチを入れた。

 アメリカの刑事物をスペイン語吹き替えでやっている。

 ドラマの中でも、サイレンが鳴った。

 
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松本尚人

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